北八ヶ岳は南八ヶ岳と比べるとアルペン的要素に欠けていて地味な山域だけど、南八ヶ岳には無い魅力を持っています。なだらかなで雄大な山が広がって懐大きく、太古の原生林と池沼が織り成す変化に富んだ景色を味わうことができるのが北八ヶ岳の醍醐味です。紅葉が始まった2011年10月に大河原峠から双子山~大岳~横岳と周遊登山してみました。
登山した日-2011.10.10
登山起点・大河原峠へ
早朝白み始めた空を見ながら蓼科スカイラインをバイクで駆け上がります。
10月も半ばまでくると八ヶ岳の山の中はとても寒くて、ハンドルを握る手先がかじかんできて、風をもろに受けるお腹あたりも冷えてきて急性の下痢になりそうなくらいです。
早朝だから車は一台も走っていなくて、僕一人だけが北八ヶ岳の広大な山裾を走っているような錯覚を感じます。カラマツやシラビソの森を突っ切りながらふと見る木々の葉はようやく色づいて来た感じです。
蓼科スカイラインを走ることおよそ20分、広々とした駐車スペースと小屋が見えて標高2093mの大河原峠へ到着。道中車なんて出会わなかったのに、駐車場にはすでに多くの車が停まっていて数組の登山者が登山準備をしていました。
さて、今回の登山こんな計画です。
大河原峠→蓼科山→天祥寺原→横岳→大岳→双子池→双子山→大河原峠
どうも天気が良くありません。北側は浅間山が見渡せるけど東側の蓼科山方面には鉛色の重たい濃密な雲がかかって風も強くて寒い。しかし西側の二子山方面には雲は無い様子。なので先に双子山へ登って最後に蓼科山に登ることにしよう。
大河原峠。まだ薄暗いのに登山者の車が沢山停まっています。
天気があまり良く有りません。鉛色の雲が空を覆っています。
双子山~草原に包まれた優しい山
双子山の登り道は背丈の低いササ原と、シラビソの疎林が点在する牧歌的な景色に包まていて心地良く勾配もきつくないから楽です。でも登山道の両脇に飛び出た朝露に濡れたササの葉先が足腰にかかる度に下半身はびしょ濡れになってきてちょっぴり不快な思いもします。
やがて薄暗い針葉樹の森に入って少し進むと、森を抜けて目の前に台地のような尾根と草原が広がります。尾根の上に岩が積み重なり標柱が立っていた所が双子山(2224m)の山頂でした。 大河原峠から歩き始めてわずか20分ほどで、最初のピークを踏んだことになります。
見晴らしはとても良く、目の前にはこれから目指す大岳・横岳が横たわっていて、全山鬱蒼とした針葉樹の森で包まれた山肌はとても近寄りがたくて険しく見えます。じっと眺めていると蓼科山方面から流れてきた雲が横岳にぶつかっては消えてを繰り返していました。 ここから見えるはずの蓼科山は相変わらずガスに包まれていて山裾すら見えませんでした。
登り序盤の登山度はササが茂った中。
ササ藪を越えたら草地と針葉樹の歩きやすい緩やかな登道。
双子山の山頂標識が見えてきました。
双子山山頂。向こうにはこれから目指す大岳(左)と横岳(右)が見えます。
神秘的な双子池
双子山のなだらかな草原の中をしばらく堪能していると、ちょうど日の出になって薄暗かった北八ヶ岳の全景が一気に明るくなり色褪せた草原も一気に黄金色に輝きます。そんな光景広がる草原を進んでいくと緩やかな下り道になって、また深い針葉樹の森へ入ります。ちょうとこのあたりから何組もの登山者とすれ違うようになります。
これらの登山者はすぐ下にある双子池ヒュッテに宿泊していた登山者のでした。 次々とやってくる登山者たち・・・結構な人数とすれ違ったということは間近に双子池ヒュッテが近いからかもしれない。
予感は的中して、森がぽっかり開けた空間に出ると立派な山小屋の双子池ヒュッテへ到着。小屋のテラスでは数組の登山者が話をしている以外は、ひっそりしていて静か。この山小屋のそばには双子池というのがあるので、ちょっと寄ってみます。
双子池は、山小屋の目と鼻の先にあるは深い森のなかにあって静かに佇んでいました。菓子パンをかじりながらしばらく双子池を眺めていると、カメラを持った男性がそばに来ました。話をすると頻繁に双子池へ訪れているそうで、今年は双子池の水量が多いと言います。初めてここを訪れる僕にはその違いは全く判らないけど、いつもと違う光景なんだということはだけは理解出来ました。
朝日に輝く双子山山頂の草原。
堂々とした横岳の山容。
双子山を過ぎれば森のなか。
静かに水を湛える双子池の光景。
大岳の急登にあえぐ
双子池と別れて2つ目のピーク、大岳を目指します。 双子池ヒュッテから大岳方面の分岐路へ入ってすぐ目の前に見えてきたのは累々と積み重なった巨岩。牛一頭はゆうにありそうな灰色の巨岩をよじ登ったり、あるいはその上を飛び跳ねたり、時には身をよじらせながら岩間を縫っての登りがここから始まります。
おまけに勾配もあるから体力が一気に削がれる・・・。 しんどい登りだけど、時々見晴らしのいいポイントに出くわすと、北八ヶ岳の深い森林を眼下に収めることができて気分爽快。歩いてきた双子山も見渡すことができたし、天気も晴天になってきたから気持ち的には嬉しい部分があるけれど、それよりも今直面する登りのキツさに最近の運動不足を痛感してツライです。
ちなみにこの場所は『天狗の露地』と呼ばれ、天狗様が住んでいそうな荒々しい場所です。巨岩と岩の隙間に茂るいじけたコメツガや潅木だけの荒涼とした光景に、はるか昔ここで起きていた激しい火山活動を想像します。
『天狗の露地』をようやく越えると、見晴らしの無い鬱蒼とした針葉樹の森が続きます。容赦の無い急登にハアハア息を切らせながら登っていくと、大岳分岐の標識を見つけます。それを見てほっと安堵。やっと大岳へたどり着けるんだ・・・つまりここは大岳直下で、あと5分ほどで山頂へ立てるからです。
大岳へ進むと、森が切れて先ほど歩いてきた天狗の露地のような荒涼とした風景が広がります。岩の隙間に生えるハイマツの曲がりくねった木々が山頂が近いことを教えてくれます。大岳山頂(2382m)は密林の中からぽっかり岩の頭を出したような所でした。
大岳からは遮るもののない絶景が広がります!北八ヶ岳や南八ヶ岳の連なり、南アルプス。遠くに北アルプスや浅間山。眼下に野辺山高原や奥秩父、上州の重厚な山々・・・・ホント山だらけの大パノラマです!そして目の前には横岳の山体が横たわっていて、その後ろには蓼科山が横岳に負けないように大きく立っています。空は快晴で蓼科山にまとわりついていた雲はすっかり消えてしまっていました。 こんなに素晴らしい景色なんだからずっと眺めていたいな。
でもじっとできない位寒いです。 寒さと強風から逃れるように大岳分岐まで戻って横岳を目指します。
双子池ヒュッテ分岐点から大岳へ向かいます。
大きな岩が累々と積み重なる天狗の路地。
天狗の露地から大岳(左)、横岳(右)を望みます。
大岳山頂手前の分岐点。ここまで来れば大岳はもうすぐそこ。
大岳山頂から望んだ横岳(左)と蓼科山(右)。
大岳山頂から見た双子山は山頂だけが草原なのがここから良く見えます。
ぎりぎり森林限界!横岳への尾根歩き
大岳から横岳まではおよそ一時間の尾根歩き。かろうじて森林限界だから背の高い木々も少なくて常に展望が利きながら歩けます。白い岩を乗り越え、ハイマツをかき分け、色づいた高山植物の葉っぱを足元に見ながらの歩きはとても楽しくてハイテンション。大岳の時ほど風も強くなく身体を動かしてるから寒さも感じません。すれ違う人も無く、静かな北八ヶ岳の稜線を満喫できました。
進んでいくにつれて行く手にそびえたつ横岳の頂きは、形を変化させながら視線に大きく入って来るものの、鞍部から横岳の登り返しになると、横岳の懐に入ったのと樹林帯に入ったせいもあって横岳の姿は見えなくなります。それほどキツイ登りじゃないけど、僕は大岳の天狗の露地の登りですっかり疲れていたから辛くて何度も足が止まりました。
辿り着いた横岳の山頂(2473m)は登山者やハイカーさんで賑わっていました。横岳の展望も大岳で見た時と同じ大パノラマが広がっていて好展望!横岳からは今日のコース最後の山・蓼科山を望む・・・けれど、あまりにも距離が遠い。今の僕の体力ではきっと登れないだろう。 しょうがないから蓼科山は諦めて天祥寺原経由で大河原峠へ戻ることにします。
横岳を正面に捉えての快適な尾根歩き。
横岳山頂直下へ到達。山頂まであともう少し。
変化に富む北八ヶ岳の景色
横岳を後にして天祥寺原を目指します。急なジグザグの下り道を駆け抜けるように降りていくと、いくぶん勾配が緩くなってきました。
すると木々の隙間からなんだかキラキラ光ものが前に見えてきます。景色の変化に期待して駆け足で向かうと、小さな池が姿を見せたそれは亀甲池。歩いて数分で一周できるほどの小さい池なのに、針葉樹やダケカンバに包まれて静かに水をたたえている光景は、序盤にみた双子池に劣らずとても神秘的な光景です。 湖の畔の岩に腰掛けてその光景をぼんやり眺めて・・・ああ心地いいな。僕以外にも何組かの登山者たちが湖畔でまったりとしていました。
そろそろ亀甲池を後にして天祥寺原を目指そう。出発して少し森の中を進むと、また開けて真正面に蓼科山が大きく目に入ります。蓼科山を正面に見据えながら緩やかな登山道を下っていくと天祥寺原へたどり着きます。
ここは横岳と蓼科山に挟まれた谷筋状の地形で、辺りはササの草原が広がる気持のいい場所です。 谷あいだから風も無くて、ポカポカ陽気に包まれササ藪のむせる匂いを嗅ぎながら大河原峠への緩やかな登り返しの道を一時間近くかけて歩いていくと、大河原峠に建つヒュッテの三角の屋根が見えてきます。 時刻は午後12時。大河原峠は観光客やハイカーでごった返していて、人で賑わう行楽地の光景がそこにありました。
さて、今回の登山を振り返ってみると、深い針葉樹の森、神秘的な池の美しさ、牧歌的な草原の風景、なだらかでおおらかで広い山並みという北八ヶ岳の魅力・特徴を身体いっぱいに味わうことが出来て大満足です! 今度は違う季節に同じコースを歩いてみたいな。今回体力不足で断念した蓼科山も含めて。
横岳山頂から蓼科山を望みます。
苔むしたシラビソコメツガの森。
亀甲池。静かに佇んでいました。
天祥寺原へ向かう道から蓼科山の山頂を間近に望みました。
天祥寺原は一面のササ原。そこに針葉樹が点在する光景が広がっています。
大河原峠へ無事に到着。
双子山&横岳フォトギャラリー
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双子山&横岳登山地図
登山に要した時間 / 6時間