南八ヶ岳・横岳~岩稜に咲く神の花ツクモグサ

八ヶ岳/蓼科周辺

週末真夜中の午前0時。仕事から帰って寝ないまま僕はバイクで南八ヶ岳の横岳(2829m)を目指していました。何故無理をしてまで横岳を目指すのでしょうか?それは横岳に『神の花』が咲いているからです。

登山した日-2007.6.01~02

杣添(そまぞえ)尾根から横岳へ

6月1日。長野県南牧村にある海ノ口の登山口は人気は皆無でひっそりしていて、見上げる空は一面灰色の雲に覆われ静寂の空間をより一層物淋しくしています。

登山口へ入ると無人の別荘街の中を登っていき、辺りに広がるシラカバやレンゲツツジの木々はようやく芽吹きはじめた感じです。

間もなく針葉樹の森へ入るも長く続かず林道に出ました。晴れていれば行く手に横岳山頂が見えるんだけど相変わらず厚い雲が覆う空・・・ちなみに天気予報だと今日明日ともに曇り時々晴れなんだけどなぁ。けど今にも雨が降りそうな感じです。

林道を進むと再び登山口が見えてここから杣添尾根登りの始まり!長くキツい、そして殆ど視界の無い深い森の中をずっと歩かないといけないこの尾根を過去何度も歩いていて様子は大体判っているので、これから味わう辛さを覚悟します。

ふと何かにジロジロ見られている気配がして足が止まります。人なんて誰も居ないはずなのに・・・? 注意深く見回してみると近くの東屋のそばに大きなケモノが居るのが目に入って、その瞬間驚いて反射神経的に身構えてしまったけどよく見たらカモシカでした。

なんだカモシカか・・・。まあカモシカも突然人間と出会って驚いているよなぁ。それを思わせるようにカモシカはジッと僕を見つめて視線をはずしません。でも僕が危険人物じゃないと判断したのか、はたまた僕に見飽きてしまったのか、視線を外してのっそり歩きながら森の奥へと消えていきました。

八ヶ岳杣添尾根1 林道から見上げた横岳。空は雲が垂れ込めて天気は良くないなぁて感じ。

八ヶ岳杣添尾根2 誰かが僕をじーっと見ているような気がする。

八ヶ岳杣添尾根3 と思ったらカモシカさんでした。

行く手を阻む残雪

杣添尾根へ足を踏み入れると急勾配の登りが続きます。

晴れの日でも薄暗い森の中は、曇天だと一層暗くて薄気味悪い感じ・・・。途中で立ち止まって耳をすませば無音の世界で風の音も、鳥のさえずりも、水の流れる音もしません。僕だけが一人ポツンと森の中に取り残された感覚です。

杣添尾根を四分の一ほど登ったあたりで残雪が出始め、高度を上げると雪の量が加速度的に増えてやがて登山に支障が出る程までになります。

1mは軽く積もっている残雪は、固く締まった所もあればそうでない所もあって、そうでない所に足を踏むと太ももまですっぽり足が沈んで引っこ抜くのに大変。そういうのを何度か繰り返すもんだから、急速に体力を奪われてしまいます。

長く続いた針葉樹の森からダケカンバの森に変わると視界が晴れて目指す横岳が眼前に見えました。本来ならこの瞬間が嬉しいはずなんだけど、僕はここで困ってしまいます。この先踏み跡が一切無かったのです。ここまではかろうじてあった他の登山者の踏み跡をなぞるように歩いて雪の踏み抜きを最小限に抑えていました。

皆ここで引き返してしまったんだ・・・

踏み跡の無い雪面を恐る恐る踏み込むと、ズブズブと足が沈んでしまう。下手をすれば腰まで沈むくらいです。さあ大変だ。深い雪と腐れ雪がタッグを組んでの妨害をどうやって乗り越えようか? ここは時間をじっくりかけて一歩一歩踏み固めて前進する作戦にしよう。道路をローラーで整地するように踏み固めて道を作ります。これでやっとここを通り抜けられそうだ。でも本来なら数分で踏破できる所を2時間も費やしてしまいました・・・。

ダケカンバの森からハイマツ帯の森林限界までくると、雪も少なくなって幾分歩行が楽になりました。最後の急傾斜を息も切らしながら登り切ると横岳の三叉峰(2825m)へ到着です。

本来ならここから硫黄岳をぐるっと廻って赤岳鉱泉にテントを張る予定だったけど、体力・時間ともにもう余裕が無かったので、硫黄岳とは反対方向にあるここから比較的近い行者小屋に変更します。

八ヶ岳杣添尾根4 杣添尾根入り口では全く雪は無かったのに登り始めてしばらくすると多量の残雪が出始めます。

八ヶ岳杣添尾根5 杣添尾根上部まで来ると赤岳とその稜線が大分間近に見えてきたけど、ツラい登りはまだまだこれから。

八ヶ岳杣添尾根6 横岳の主稜線を眼前に捉えて。

八ヶ岳杣添尾根7 天気は目まぐるしく変化。雲が切れて少し晴れ間が出たり暗雲が垂れこめてきたり・・・。

八ヶ岳杣添尾根8 標高2600m付近で最大の難所、ダケカンバの森に広がる雪の斜面に出くわします。ここへ足を踏み込むと胸の下までズブズブ沈下。

八ヶ岳杣添尾根9 難所を乗り越えて横岳の主稜線へ立った時は夕方間近で、登りにかなり手こずりました。

目覚める八ヶ岳

ところで何で今回こんな時期に横岳を目指すのかというと、この時期から横岳の稜線に咲き始める『ツクモグサ』を見たいからです。でも今日は思わぬ雪の多さに疲れ果ててツクモグサを探す余裕はありません。明日はツクモグサに出会えるかな・・・。

翌朝。暗いうちに行者小屋テント場を出発して、地蔵尾根に取り付き一気に登り切って赤岳~横岳間の主稜線へたどり着きました。 時間的には丁度日の出が始まる前で眼下は灰色の雲海が広がり、日の出の方向はほんのり紅くなっています。空はみるみる明るくなってそして・・・日の出! その瞬間に空が輝き、暗かった八ヶ岳の全景が日に照らされて紅色に染まりました。

八ヶ岳杣添尾根10 日の出の始まり。

八ヶ岳杣添尾根11 灰色の雲海から太陽が出ました!日の出の瞬間は本当に何時見ても心がぐっときますね。

八ヶ岳杣添尾根12 日の出で目覚める赤岳。

八ヶ岳杣添尾根13 八ヶ岳東側の野辺山高原は一面の雲海でその向こうに金峰山が横たわります。

産毛に包まれたツクモグサ

地蔵尾根分岐から尾根を北へ向けて進んで行くと横岳の一部・二十三夜峰の登りへ差し掛かり、険しい岩場と断崖絶壁が連続する道を登っていきます。夏ならこの辺り一面高山植物の可憐な花々に包まれるけど、夏には少し早いこの時期はまだ高山植物の気配は全く感じられず枯れ草がわずかにへばり付いているだけ。もちろんツクモグサが咲いている気配もありません。本当にツクモグサはあるのかな?

二十三夜峰を越えると、次に日の出岳の岩場へ取り付きます。

クサリ場を慎重に登って日の出岳山頂に立つと、行く手に三叉峰や横岳最高点の大権現のピークを望めました。 ここから眺める横岳の刃の稜線や、赤岳・阿弥陀岳は迫力があって展望地としては最高の場所で、ちょっと休もうと足元を見ると茶色い地面の中に黄色の大きなつぼみが出ているのに気付きました。

ツクモグサだ!淡い黄色の花に全身暖かい産毛のコートに包まれた優しい姿は、とても荒々しい山の頂に咲くような花には見えません。

太陽もすっかり高くなった頃に横岳最高点の大権現へ到着。ここも展望が素晴らしくて景色を堪能しようとすると、西側から流れてきた雲がむくむくと起き上がり始めて八ヶ岳全体を覆い尽くし、僕の周りも乳白色の濃いガスに包まれ何も見えなくなってしまいました。

日差しで暖かだった稜線はガスに包まれた途端、底冷えの寒さに。もう展望は拝めなさそうだし寒くて山頂での長居は出来ないから杣添尾根を下る事にします。

杣添尾根との分岐上にある三叉峰まで戻ると、そこにもツクモグサがありました。全身を覆う産毛には露がびっしり付き、凍える風に激しく打たれながらも平然と空に向かって花を開かせようとしている姿に、この花の生命の強さと神々しさを感じました。(終)

八ヶ岳杣添尾根14 二十三夜峰から望んだそそり立つ赤岳の頂。

八ヶ岳杣添尾根15 横岳の大権現。

八ヶ岳杣添尾根16 赤岳(左)と阿弥陀岳(右)。

八ヶ岳杣添尾根17 黄金の産毛に包まれたツクモグサは開花直前でした。

八ヶ岳杣添尾根18 横岳の大権現より望んだそびえ立つ阿弥陀岳。

八ヶ岳杣添尾根19 阿弥陀岳を眺めてると、西側から急速に雲が流れてきて・・・。

八ヶ岳杣添尾根20 目阿弥陀岳はあっという間に雲に包まれてしまいました。

八ヶ岳杣添尾根21 僕が居る横岳一帯も雲に包まれて景色が見えなくなったから下山することに。

八ヶ岳杣添尾根22 咲き始めたツクモグサ。八ヶ岳の短い夏の到来です。

南八ヶ岳横岳写真ギャラリー

※クリックすると拡大します。

南八ヶ岳横岳登山地図

登山に要した時間 / 16時間

トップへ戻る
タイトルとURLをコピーしました