隣人が孤独死(孤立死)するということ-1

僕が住んでるのはごく普通の賃貸マンションで、住み始めてから6年程経ちます。僕がここへ越した時から隣に80歳くらいのおじいさんが一人で住んでいました。たまにすれ違う時に挨拶するくらいで、そもそもすれ違う事すら滅多にありません。

集合住宅にありがちな『隣は何をする人ぞ』の言葉通り住人との交流は一切無いし、誰も郵便受けや玄関の表札に名前を掲げないので、何ていう人が住んでいるか判りません。だから僕は隣におじいさんが住んでいることは知っていても名前は知らないのです。

おじいさんを最後に見かけたのは3月中旬頃で、マンションを出た道路の脇にぽつんと座っていました。そして下旬になっておじいさんの部屋の傍を通ると『排水口のような』異臭を感じるようになりました。その匂いは日に日に強くなり、廊下中に充満して玄関の隙間から僕の部屋の中へ入ってくるようになったのです。

その頃になると『排水口のような』匂いは、『脂身の肉が腐敗したような匂い』と『強烈なアンモニア臭』を混ぜたような、今まで嗅いだこと事の無い耐え難い匂いとなっていたのです。

異臭に我慢できなくなった僕は4月早々にマンションの管理会社へ連絡。ところが連絡したその日は営業終了で電話が繋がらず、翌日電話すると今度はお休み。その翌日やっと繋がったので

『隣の○○○号室から耐え難い異臭がするから大至急様子を見て欲しい。』

と朝一で連絡しました。


●警察へ連絡

夕方、自宅へ戻ると相変わらず異臭がしていた為、管理会社へ電話すると『まだ見に行って無い』との事。ちょっと対応が遅いんじゃないかと憤りを感じつつ、何時確認しに行くのかと再度尋ねると『ちょっと判らない・・・来週になるかもしれない』と曖昧な答えしか返って来ないので僕は我慢出来なくなり、

『何時確認しに行くか判らないという事でしたら、こちらで警察呼びますけどいいですか』

と言ってすぐに110番連絡。

数分してパトカーが到着して警察官を現場まで案内。程なくして数台の消防車が赤色灯を回しサイレンを鳴らしてやってくると、マンション周辺は騒然とした雰囲気になって近所から野次馬が集まって来る始末・・・なんだか大変な事になってしまいました。

このマンションは一つ問題点があって、それは管理会社が『東京』にあり合鍵を持つ『大家さん』が近くに居ないという事。だから何か問題が起きた場合、東京から鍵を持ってマンションのある熊谷まで来なくてはならないのです。(以前は近所に大家さんが居たけど、3年前にマンションの所有者が変わり東京の管理会社が管理するようになりました。)

だから警察や消防が来ても中へ立ち入り出来ないのです。警察官が僕の部屋からベランダ越しにおじいさんの部屋を覗くも、カーテンは閉まって中の様子は判りませんが、部屋の中からテレビの音は聞こえて来ます。

消防の人も異臭を嗅ぐなり『これはおかしいから至急中へ入らないといけない。』という事で、管理会社にベランダの窓ガラスを割って入っていいかと管理会社に要請するも管理会社は『窓を割らないでくれ』の一点張り。じゃあ鍵屋を手配して玄関を開けるという案を出すも管理会社は手配に手間取ってなかなか立ち入る事が出来ません。

その間僕は警察・消防署の人から事情聴取を受け続けたり、警察・消防と管理会社とのパイプ役的な立場に立たされます。警察は管理会社から入居者の情報を聞き出して無線で本部に伝えると、僕は初めてそのおじいさんの名前や年齢を知ったのです。

僕と同じ階の数部屋離れた部屋に住むおばちゃんが出て来ました。普段から世間話をしたりと唯一このマンションで交流がある入居者で、廊下が騒がしいから様子を見に出てきたようです。おばちゃんに事情を話すと、

『ああ、あのおじいちゃんが?確かにここ最近匂いが気になってしょうがなかったのよ。』
『おじいちゃんなら半月ほど前にオートロックが開かなくて困ってたのを見たわ。』



●直視できない現実

1時間経ってようやく管理会社から窓ガラスを割って良いとの連絡を貰えると、複数の消防署員が僕のベランダからおじいさんのベランダへ渡り、『○時○分ガラスを破ります』みたいな号令が聞こえた直後、ガラスをハンマーで叩く鈍い音がして部屋へ突入、すぐに内側から玄関の鍵が解錠されて消防署員が出て来きました。

警察官『中に人は??』
消防署員『いる!いる!でもダメ!ダメ。顔が(腐敗して)つぶれてる。』

おじいさんはベッドの下に倒れ、顔は判別不可能で体液が床面まで流れ出てるほどまでに腐敗していました。生前からごみを溜め込んでいたらしく部屋の中はゴミ屋敷の様相でした。

玄関が開いた瞬間、部屋に溜まっていた腐敗臭が辺りに充満すると僕は正気を保てず、マンションの外まで逃げてしまいました。

こうした凄惨な現場にも関わらず、消防署員の方々はとても冷静で遺体を発見するとすぐに撤収作業をし始めました。その理由を尋ねると『(救助が見込めない)遺体の場合は管轄が警察になるから』との事で、警察官と引き継ぎのやりとりを済ませると消防署員は全員引き上げてしまいました。

通報からずっと立ち会い続けて来た僕は、体力的にも精神的にも疲れ果ててしまい、留まっている警察の人に『部屋へ戻っていいですか』と尋ねると、『これから鑑識が来て現場検証を行うからまたその時色々事情を話して欲しい』という事で開放されました。

部屋へ戻っても落ち着けません。今すぐ横になりたいくらい疲れてるのに『隣で人が亡くなっていた』事実に気が動転してどうにも休めないのです。そして何より精神的に堪えたのは

『壁一枚挟んで腐敗した遺体と過ごしていた。』
『腐敗した遺体の匂いを嗅ぎながら生活をしていた。』

という事実です。

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